ジャニー喜多川の性加害問題で露わに アイドルはみな「少年」という性別だ【梁木みのり】
◾️好きなアイドルを恋愛感情メインで見ている人は意外と少ない
またアイドルの性別とファンダムの多数派の性別が異性同士になりやすいのは、ファンが自らの性規範を忘れられるからだ。現役のアイドルファンたちの話を聞いていると、好きなアイドルを恋愛感情メインで見ている人は意外と少ない。それよりも、自己投影や変身願望のほうが根深いように感じる。異性性の薄い異性を見つめることで、ファンは自身の性をアイドルと自己との中間地点に置き、フラットに戻しているのだ。
ただし、女性が男性をまなざす場合、やはりそこに多少なりとも成熟した性が浮かび上がってくるのは否めない。だからこそ、男女という性なしに少年に欲望を注ぐジャニー氏は、成熟の香りの一切しないアイドルを育成できるたいへん稀有な存在だったのだ。女性がプロデュースしていたらこうはなるまい。
「少年アイドル」は男性アイドルには限らない。ジャニーズほど純粋なものではないが、秋元康が手がけるアイドルもまた少年性を帯びた存在だ。前田敦子、松井珠理奈、山本彩、生駒里奈、平手友梨奈、森田ひかるなど、秋元康が歴代センターに選んできたメンバーを見ると、その多くがボブカットでボーイッシュな魅力を持ったアイドルだとわかる。
AKB48の台頭の前にさかのぼれば、ハロー!プロジェクトならまさにショートヘアで元気な少年のようなビジュアルの安倍なつみや松浦亜弥、気だるげで不良っぽい後藤真希などが挙げられるだろう。さらに、2010年代後半にアンダーグラウンドの少女たちに熱狂的に支持され、現在はメインカルチャーの最前線で活躍している元ゆるめるモ!のあのちゃんや、でんぱ組inc.の最盛期にダントツの人気を誇っていた最上もがなども、ボブカットで少年のような印象を抱かせる。
さらに、性だけでなく人種の面でもアイドルの少年性は効力を発揮する。今、BTSをはじめとするK-POPアイドルが世界で大人気だ。BTSはもう全員30歳前後で兵役も始まり、アイドルとしては決して若い年齢ではないが、いまだ世界でアイドルとして受け入れられ、成熟した存在とはみなされていない。他方で、2010年代に世界で人気を博したイギリス発のボーイズグループOne Directionは、アイドル的に受け入れられたものの、20代前半のうちにグループ活動をやめソロアーティストになった。特にハリー・スタイルズはすっかり世界のトップアーティストだが、彼をアイドルだと思う人はもはやいまい。
日本人、韓国人などの黄色人種は、大人になっても顔立ちがつるりとして幼いままだ。日本人が思う以上に、欧米圏などから見るといっそう子どもっぽく見えるだろう。一方、白人をはじめとして東アジア以外の多くの地域の人々は、成長するにしたがってうんと背が伸び、体つきもよくなり、顔の彫りも深くなる。つまり、One Directionは子どもの外見のままではいられないが、BTSは永遠に少年でありうる。長く活動するアイドルは、アジア人でなければありえないのだ。